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水時計は何故四段仕掛けなのか [歴史への旅・貴族の時代]

20110204205348c0d.gif当然ながら大昔には時計がなかった。人々は明るくなれば起きて働き、夜になれば寝ればいいのだからそんなものは必要もない。しかし、律令国家なるものが出来て役人が生まれると、一日に何度も会議やプレゼンが必要となり、時刻を知る必要が生じてしまった。多くの国々では国家の成立以前から日時計が使われていたが、エジプト等と違って日本は湿気が多い。日時計が実用になるのは一年の3分の一もないから実際に使われることもなかった。

だから日本の最初の時計は水時計である。時刻は人為的に作られたのである。日本書紀の660年に中大兄皇子が初めて漏刻つまり水時計を作ったと記されている。逆に言えばそれまでの国家というのは会議もろくにやらない、いい加減なものであったということだ。時刻を定めるということは国として成り立つための最低条件でもあった。

その漏刻というものがどのようなものであったかというとき必ず出てくるのが上の図の様なものである。もちろん日本書記に図解はない。これは唐の呂才という人が書いた書物に出てくるだけで現存しているものでもない。中国文化の輸入に熱心だった大和朝廷はどうせこのような当時の最新技術を取り入れたに違いないと言う推定でしかない。飛鳥水落遺跡は石作りで周りには水堀が張り巡らされているから呂才の水時計と関係があるとも思われない。四段式は後述するように座敷に置いて特に大量の水がいらないことがポイントなのだ。

四段式水時計には高度な技術がいる。普通に上の容器から下の容器に水を落とせば、流れは一定ではない。流量は上の水位の平方根に比例するのだから、始めは多く流れてだんだんと流れは小さくなる。これでは比例で時間を計る訳にはいかない。

高低差が滝のように大きくて、水量豊富であれば、上の容器を絶えずあふれさせて水位が一定になるようにすることが出来る。飛鳥水落遺跡はあるいはこのようなものだったかもしれない。しかし、これは地形が限られており、山の中にでも作らないことには難しい。時計が必要とされるのは、全く反対の場所、役所の中、屋内である。

そこで工夫されたのは、上の容器の上にさらに容器をつなぎ、水位を一定に保つ仕掛けだ。呂才の漏刻は4段式で上から「夜人池」「日人池」「平壷」「萬分壷」とあって最後に「水海」に注ぎ込まれた水量が時間に比例するようになっている。各段の間はサイフォンで結ばれているから、水位が下がれば高低差が増えて流量が増えるというフィードバックメカニズムが働く。これならどこの座敷にでも置ける。
waterwatch.gif
うまくフィードバックが働くかどうかをシミュレーションで計算してみたのが左の図である。図をクリックすると拡大できる。「夜人池」に水位100cmまで入れた水がカラになるまで30時間の各段の水位がプロットしてある。各段の高低差は50cmにしてある。「日人池」「平壷」の水位は変動するが「萬分壷」の水位は一定に保たれ、その結果、「水海」の水位はほぼ完全な直線で増加している。「萬分壷」の水位誤差は0.5%以下である。

流量は高低差の平方根でしか変化しないからフィードバックのゲインは高くない。だから段数の多いほうが誤差が少ないということになるが、3段でやってみると約4%になった。2段では20%にもなる。4%では積み重なって数分の違いになるから四段との差がある。0.5%以下は当時としては較正のしようもなくこれ以上の精度は無理だっただろう。五段にしても、水温など他の要素の誤差のほうが大きくなるから全体の精度は上がらない。だから水時計は四段式なのである。
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左図は一日2回「夜人池」に水を継ぎ足した場合のシュミレーションだ。「夜人池」が大きく変動するにも関わらず高い精度が保たれていることがわかる。「漏刻博士」が置かれてその任にあたっているが、この実際の運転はなかなか大変だったろう。多分天体位置で較正してバルブを調節したのだろう。水の粘性は気温によっても変わるし、木製の漏刻は漆などで保護しても結局腐食して長持ちしない。常に補修も必要だっただろう。

水時計は奈良時代平安時代を通して長らく宮中で使われはしたが、南蛮人から機械式時計の技術がもたらされるとたちまち新技術にとって変わられた。江戸時代に使われた形跡はない。古い技術である線香時計などはその後も補助的に使われたがメンテの大変な水時計はもはや全く使われることもなかった。日本の理系研究職の元祖ともいうべき漏刻博士がいつまで続いたかもあきらかでない。
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